FullSizeRender

「大回り乗車」といえばJRの大都市近郊区間がお馴染みですが、一部の私鉄でも行なうことができます。

有名なのが近鉄の例で、環状経路となっている布施〜大和西大寺〜大和八木〜布施の区間で大回り乗車をすることが可能です。

このほか、阪急電鉄も十三〜西宮北口〜宝塚〜十三の、神戸線、今津線、宝塚線の区間が環状経路となっており、規則ではこの区間を「阪急環状線」と称します。

ではこの「阪急環状線」の区間では大回り乗車は可能なのでしょうか。解説したいと思います。

≪下に続く≫
困ったことがあればすぐに鉄道会社に問い合わせる方もいらっしゃいますが、旅客と鉄道会社との運送契約はすべて旅客営業規則をはじめとする運送約款に拠りますから、まずはこれを読んでみましょう。

運送約款は、駅に公告されているほか公式ホームページでも公開されています。

では見てみましょう。

まず旅客営業規則第39条では、以下のように規定されています。

【運賃計算の原則】
第39条 
運賃は、旅客が実際に乗車する経路および発着の順序によって計算する。

この第39条は、「第3章 運賃・料金」の一番はじめの条文であり、これが基本中の基本、大原則です。

大回り乗車は運賃計算経路と「実際に乗車する経路」とが相違することで成立しますから、これを読むと大回り乗車は禁止されているように読めます。

≪下に続く≫


2.キロ程が10kmを超える場合は例外

ところが、「原則」には「例外」がつきもの。

今回もそうで、これには例外規定が設けられています。

【乗車券の使用条件】
第63条 
省略
2 前項の規定にかかわらず、阪急環状線内を発着または通過となる場合で、環状線内運賃区間数が3区(10キロ)以上の乗車券(定期券を除く)を所持する旅客は、運賃計算経路によらないで迂回して乗車することができる。

これがその例外規定です。

これによると、環状線内の運賃区間数が3区(10km)を超える場合には例外的に迂回乗車が認められています。

ただ、注意していただきたいのは「環状線内運賃区間数が3区(10km)」の場合であること。

ですから、例えば「京都河原町➡︎神崎川」の乗車券だと余裕で10kmを超えていますが、環状線内の区間は十三〜神崎川の1駅1区分にしか満たないため、十三〜神崎川間を宝塚経由で回ることはできません。

あくまでも環状線内の運賃区間数が3区(10km)を超えている場合にのみ大回り乗車が可能となります。

≪下に続く≫
お金がたまるポイントサイトモッピー

3.大回り乗車は実は損

しかし、いくら阪急電鉄は運賃が安いとはいえ3区だと230円、帰ってくることも考えれば往復で460円もかかります。

正直いうと、コスパが悪すぎます。

例えば大阪近郊区間最長大回りの場合、往復運賃400円に対して乗車できる距離は驚異の748キロ。1キロあたりの運賃は約0.26円です。

対して阪急環状線の場合は往復運賃460円に対して乗車できる距離は43キロ。1キロあたりの運賃は10円ほどとなります。

正直旨味がありません。旨味がないどころか、もっと衝撃的なことを言うと43キロの普通運賃は400円。阪急は片道乗車券で環状線1周の乗車ができる(規40条3項)ので、普通に経路通りの乗車券を買った方が安いんですね。

得した気になって実は損してるなんて笑えませんから、阪急環状線内の大回り乗車なんてするもんじゃありません。

ちなみに仮に2区往復だと8区片道の運賃よりも安くなるので、何気ない「3区(10km)」の区間数には深い意味があるんですね。

≪下に続く≫

4.ICOCAなどの交通系ICカードではどうか

ここまでは紙の普通乗車券の話をしてきましたが、ICOCAなどの交通系ICカードだとどうなのでしょうか。

ICOCAなどのIC乗車券は紙の普通乗車券とは別に規則が設けられていて、例えばJR西日本だと、紙の乗車券では大阪近郊区間内でしかできない大回り乗車も、IC乗車券ではICOCAエリア内全域で可能となっています。

とすれば、阪急でも同様の規定が存在する可能性があります。

なので、阪急のIC証票取扱規則にあたってみます。

ところが、特にめぼしい規定はありません。

となると、同規則第4条(以下)の規定により、旅客営業規則、及びICOCA乗車券取扱規則(ICOCAカードの場合)に委任されることとなります。

【適用範囲】
第4条 
省略
2 省略
3 この規則に定めのない事項については、旅客営業規則(以下、「営業規則」という)等の定めるところによる。
4 この規則の取扱内容については、この規則によるほか別に定めるところによる。
5 省略
6 省略
7 SF式IC証票のうち当社線におけるICOCA乗車券の取扱いについては、この規則によるほか別に定める「ICOCA乗車券取扱規則」による。

旅客営業規則は先ほど読んだので、ICOCA乗車券取扱規則を読んでみましょう。

ところが、こちらにも特にめぼしい記述はありません。

第4条の規定が突破口になるかとも思いましたが、結局はダメでした。

結局ダメなのですが一応書き記すと、第4条では以下のように定められています。

適用】
第4条
 省略
2 このICOCA乗車券取扱規則に定めのない事項は、IC証票取扱規則・IC定期券取扱規則および営業規則等の他、別に定めるものによる。
(注) 別に定めるものには、ICOCA乗車券に関してJR西日本が定めるものを含む。

このうちの注釈が突破口に見えたんですね。

先ほど述べたように、JR西日本ではICOCAエリア内全域で実際乗車の経路によらず最も低廉となる経路で計算した運賃を引き落とすこととなっています。

ですのでこの規定を適用できるのかとも思ったのですが、これが適用されるのは「ICOCAエリア内」ではなくあくまでも「別表1に定める実線及び 二重線ならびに点線の区間を含む範囲」(ICカード乗車券取扱約款第19条2項)となっています。

もし前者ならばJR線であっても私鉄線であっても「ICOCAエリア」には変わらないので阪急環状線に適用することもできたのでしょうが、残念ながら後者なので当然別表1に記載のない阪急環状線では適用することができません。

ではICOCAなどのICカードであっても3区(10km)以上という要件を満たさねばならないのでしょうか。

これは、必ずしもそうではありません。

例えばICOCAで十三に入場後、宝塚経由で隣の庄内まで行く場合。

十三から庄内までの運賃区間数は1区ですから当然大回り乗車はできないはずです。

ところがこのとき旅客が取る行動は、まず十三の改札を受けて入場し(IC証票取扱規則第5条、第14条)、折り返し乗車や環状線1周を超える乗車をせず(旅客営業規則第19条、40条3項)、またIC乗車券の通用範囲を超える乗車もせず(IC証票取扱規則第6条)、旅行終了時に庄内の改札を受けて出場する(IC証票取扱規則第14条)、というものです。

このときICカードからは十三〜庄内までの最短運賃が減額されますが、旅客は何一つとして規則に反した行動はとっていません。

ほかに最短経路でない経路をIC乗車券で乗車してはならないという規定もありません。

仮に西宮北口かどこかに中間改札があれば話は別ですが、そういうことも現状ではありません。

となると、語弊を生むかもしれませんが、あとはいくら残高より減額するか、阪急電鉄の責任ではないでしょうか。

一見暴論のようにも見えますが、実際に阪急電鉄のとある駅で確認して細則などの内部規則にまであたっていただいても結局出された結論は「規則に規定はなく、どのような経路で乗車したかを確認する術はないので、最短経路の計算での減額とはなるが、迂回経路をICカードで乗車後にそのまま改札を通っていただいても問題ない」という旨のものでした。


5.まとめ

とはいえ、わざわざ規則で3区10km未満の大回りは禁止しているわけですから、阪急電鉄としてはそのような乗り方はしてほしくないでしょう。

また、確認をとったと書きましたが、あくまでも駅で確認しただけで、旅客制度を司る部署等から正式な回答を得たわけでもありません。

実行するときはあくまでも自己責任でお願いします。

お金がたまるポイントサイトモッピー